小説の新人賞には、ミステリーの『江戸川乱歩賞』やら、エンターテイメントの『小説すばる新人賞』やらたくさんあるが、最もレベルが高いのは、『日本ホラー小説大賞』だと僕は思う。
投稿する新人賞の受賞作を対策のために読むことがよくあり、基本的にあまり楽しくない作業なのだが(現役の作家の作品に比べて劣る作品が多いので。まあ新人賞だから当然なのですが…)、ホラー大賞の受賞作は当たりが多くて、プロの作家を超える作品がたくさんある。
『ぼぎわんが、来る』は2015年の日本ホラー小説大賞受賞作だ。
自分が好きなタイプのホラー作品があって、それはやはりお化けや幽霊などの非日常の恐怖だけでなく、日常の恐怖も同時に描いているものなのだと思った。
『ぼぎわんが、来る』にもお化けというか幽霊のような物(ぼぎわん)が出てくるのだが、この作品の怖さの本質はそこではない。
人間の悪意や厭らしさが随所に散りばめられていて、日常生活の問題が表面化し、それが恐怖を増すのである。
この作品で言えば、それは結婚や夫婦や子供の問題だったり、家族の問題だったりする。
『リング』があれほどヒットしたのも、貞子のキャラクターや井戸のアイコンの魅力もあるとは思うが、それよりも、ビデオという日常のアイテム(今はブルーレイやDVDが主流になっているが当時はみんなビデオを使っていたわけで)がキーだったわけである。
そして何よりも、助かるためにはビデオをダビングして二人に観せなければならない、という、人は窮地に陥ると自分が助かるためには周りの人を不幸にすることもしてしまう、という人間の悪意や醜さを描いているところが怖いのだと思う。
また、最近『トリハダ』というホラー映画を観た。以前深夜ドラマをやっていて人気があって映画化したらしいのだが(ドラマ版は観ていない)、この作品は幽霊などが全く出てこない、日常の恐怖に限定したホラーである。
例えば、コールセンターでクレームをしてくる客だったり、レンタル倉庫に何が入っているかだったり、偶然見えてしまった携帯メールでの不穏なやり取りだったり、不倫やストーカーなどから話は始まり、悲惨な事件が起こっていく。
確かに怖くて何度も鳥肌が立った。
が、やはり日常の恐怖だけだと、少し物足りない気もしたし、話の広がりに限界がある気がした。
おそらく、日常の恐怖と非日常の恐怖をうまくブレンドした瞬間に恐怖は倍増するはずで、その点でも『ぼぎわん』は上手い。
また、『ぼぎわん』は小説の形式も面白い。
小説は何を書くかよりもどのように書くかが重要だ、と誰か偉い人が言っていたと思うが(誰かは忘れた)、自分も小説の形式(文体とか構成)に興味があって、趣向を凝らしている作品のほうが好きだ。
『ぼぎわん』は一人称リレー方式で書かれている。
三章形式になっていて、一章ごとに三人の登場人物「私→わたし→俺」のそれぞれの視点から描かれていくことで見える景色が変わっていき、それが恐怖を増すことに繋がっている。
今までの話をまとめると、自分がホラー小説を書くとしたら、
1、日常の恐怖と非日常の恐怖を融合させる
2、小説の形式に工夫をして怖さを演出する
この二点に注意してみようと思うが、基本的にホラーは書くのが難しいのでどうなることやら…。
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