読んでもない本の感想を、読んだ振りをして書いたり喋ったりした経験がある人は少なからずいると思いますが、スタニスワフ・レム氏がこの本で試みている架空書評と呼ばれるジャンルは、そこからさらに飛躍していて、この世には存在しない本の書評をしています。
自分で本の内容を想像して、その本を批評家として褒めたり批判したりと、全部自分一人でやってしまうのです。
『完全な真空』はそんな架空書評をまとめた短編集なのですが、なかでも『とどのつまりは何も無し』ソランジュ・マリオ著、という作品は奇抜です。
これは書くことの可能性の限界に達した最初の小説であり、何もないことを書く、という小説だそうです。(ちなみにこれは、一時期流行したヌーヴォー・ロマンのパロディです)
『とどのつまりは何も無し』の冒頭の分は、「列車は着かなかった」となっている。そして、次の段落には「彼は来なかった」とある。ここに否定はあることにはあるのだが、いったい何の否定だろうか。論理的に言えば、これは全面的な否定である。
この訳の分からない本に対して、レム氏は以下のように批評しています。
このような本を読むことは結局、嘘で固められた小説の存在の壊滅を意味するだけではない。これは、それよりもむしろ、心理的存在としての読者自身を破壊する一つの方式なのである。この仮借のない断固たる論理を見ていると、この本が女性によって書かれたとは、信じがたい。
自分で書いておいて(レム氏は男性です)、「女性によって書かれたとは、信じがたい」とか大真面目に言っているわけです。
この他の書評でも、どんだけ考えてるんだよ、と驚くぐらい、レム氏は変な本のアイデアをバンバン出していて素敵です。
この本の続編の、架空の本の序文を集めた『虚数』は、この本以上に狂っていて凄まじいです。(未来では、レントゲンの写真集がはやったり、コンピュータが書いた【ビット文学】が出てきたりするそうです)
架空書評は、実際に本として書いてみたいけど、とてもまとめきれないアイデアも書くことができるので、かなり可能性の大きなジャンルだと思っていて、いずれ自分でも本格的に挑戦してみたい所存です。
スタニスワフ・レムとはどんな人か【おすすめ書籍は『完全な真空』と『虚数』】
スタニスワフ・レムは、ポーランドの小説家、SF作家、思想家。ポーランドSFの第一人者であるとともに、20世紀SF最高の作家の一人とされる。また、著書は41の異なる言語に翻訳され、2700万部が販売されており、世界で最も広く読まれているSF作家である。代表作に、2度映画化もされた『ソラリスの陽のもとに』など。
(Wikipedeiaより引用)
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