『森博嗣のミステリィ工作室』は、森さんのルーツとなったミステリィが100冊紹介されていたり、自作解説や、デビュー前に学術雑誌に書いたエッセイや、萩尾望都さんとの対談や、同人誌時代に描いていた漫画が掲載されていたりと、かなり盛りだくさんの内容になっていて、ファンなら間違いなく買いでしょう。(ちなみに漫画はかなり哲学的です)
森博嗣が作家になったいきさつ【天才エピソード】
作家になったいきさつも赤裸々に書いてありましたので、引用してみます。
『娘のためにミステリィというものの凄さを見せてやろうと思って書いた。1週間くらいで完成した。それが処女作『冷たい密室と博士たち』である。自宅にはプリンタがないので、大学の学生の部屋でプリントアウトして、娘に見せた。彼女は当時小学5年生。そうしたら、「漢字が多くて読めない」という。奥様に見せたら、「つまらない」と言って途中で寝てしまう。このまま引き下がっては、何か大切なものを失うのではないかと危惧し、本屋に出かけて、どこか原稿を募集しているところはないか、と普段決して行かないコーナで小説雑誌を眺めたわけである』
この文章を読んで、初めて長編書いて1週間で完成したんかーい!!と多くの人が突っ込んだことでしょう。素人がこのやり方を真似すると確実に怪我をします。
僕は最初の長編小説が完成するまで、9年近くかかってますので…。(これはさすがに時間かかりすぎですが)
ただ、森さんが文章を書くの速いのは、名古屋大学の助教授の仕事で論文書いたりしていて文章を書くのに慣れていたのと、学生時代に同人誌で漫画を描いていたからそのとき、アイデアとかキャラクターとかプロットとか、実地で学んでいるからというのもあると思います。
またこのエピソードで参考になるのは、送る新人賞を決めてそこに合わせて作品を書いたのではなくてまず作品を書いてから、送る出版社を探してるってとこですよね。その方が賞の傾向や枚数にとらわれずに、自分が書きたいことを書けますよね。(そもそもメフィスト賞自体、森博嗣がデビューして生まれた賞なのですが…)
デビューした作家は、どちらのパターンが多いのか気になりますね。
【自作解説・S&Mシリーズ】
S&Mシリーズの自作解説も読んでみて得るところの多い内容でした。やはり森さんは、今まであったミステリー作品と同じことをやらずにずらす、というのを意図的にやっているからオリジナリティが出ているのだと感じました。例えば『有限と微笑のパン』の自作解説ではこんなことを語っていました。
『3人の女子大生が旅行をするが、3人ともが知的である、という設定は何故かあまり見かけない。物語に登場する若い女性は、はちゃめちゃに低能なのだが、そういった人物を実際に見たことは2度しかない』
既存の作品のカウンターをやることで、新しさが出てくるんですね。
森博嗣のルーツ・ミステリィ100
このコーナーでは、森さんが影響を受けた本が紹介されていて、参考になりました。ここで紹介されていて読んだ中で、面白かった作品をいくつか書いてみます。
『皇帝のかぎ煙草入れ』ジョン・ディスクン・カー
このトリックはビビりました。
『偽のデュー警部』ピーター・ラヴゼイ
ラヴゼイは短編集も面白いですね!
『フィッツジェラルドを目指した男』デイヴィッド・ハンドラー
確かに森博嗣のS&Mシリーズっぽい雰囲気を感じました。
『黒後家蜘蛛の会(1~5)』アイザック・アシモフ
様々なメンバーが討論しながら推理していくパターンですね。皮肉キャラのルービンがいい!
『ドグラ・マグラ』夢野久作
かなり難解で壮大な話ですね
よく森さんは、「自分は本なんてほとんど読んでないけど作家なれた」と言ってますが、ここで紹介されているたくさんの本を見ると、「あんた結構読んどるやないか!小説好きやないか!」と突っ込みたくなりますね。特に海外のミステリー小説をたくさん読んでますよね。他のプロ作家に比べれば読書量は少ないのかもしれないですが、一般の人の中では確実に多いほうに入るのではないでしょうか。
というわけで、森博嗣さんのことがいろいろ分かるこの本はおススメです!
→森博嗣氏の名言「こんなに頑張っているのに、どうして…」はコチラ!
→森博嗣氏の名言「思いどおりに小説が書けません。どうしたら、良いでしょうか?…」はコチラ
→森博嗣が作家になると決めて、一番最初にしたこと 『工学部・水柿助教授の逡巡』はコチラ
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