40秒でできるピザを食べてみました




私(わたくし)がそのコンビニに入ったとき、もう深夜の遅い時刻ということもあってか、レジに店員の方は一人しかおりませんでした。

しかし、私のほかにお客は五人ほどいて、店内でそれぞれ商品を決めているような状態でした。

恥ずかしながら小腹が空いていた私は、何かチキンかフライドポテトのようなものを買って空腹を満たそうと考えてレジに向かいました。

するとレジの目の前にチラシがこれみよがしに貼り付けてあり、ピザがたったの198円で販売されているというのです。

この歳にもなって独り身の私が、深夜のコンビニで一人でピザを食べたいなどと思ってしまったことを、どうか笑ってくださいませ。

しかし、私はすぐにピザを注文するというような浅はかことはしませんでした。

不学で何の取り柄もない、でくの坊の私ではございますが、唯一、人に負けないものがあるとすれば、それはデリカシーの心を持っていることであり、周りの人に迷惑をかけることだけは慎んで生きていこうと、それだけを心に大切に秘めて今まで生きてきたのであります。

 

そのときはまだレジには誰も並んでいませんでしたが、私がピザを頼んでそれを作るのに時間がかかるようなことがあれば、レジに行列ができてしまうのは火を見るよりも明らかであり、もし私のせいでそんな事態が起これば末代までの恥であります。

私は泣く泣くピザをあきらめようとしました。

が、そのチラシをよく見ると、

 

「約40秒でできあがります」

 

と書いてあったのです。

たったの40秒だと!と、私は思わず声に出して叫んでしまうところをぐっとこらえました。
40秒ならば、なんとか他のお客が後ろに並ぶ前に、会計を済ませられそうだ。瞬時にこのことを察した私は、やっとピザを注文する決心がついたのです。

そして店員の方にピザの注文をしたあとに、私はある不安にとらわれたのであります。

約40秒でできあがる、というのは、あくまでも平均的な対応での時間ではないのか?
この店員の方が新人だった場合、準備にもたついて、平均的な時間よりも多くの時間がかかってしまう可能性もあるのではないだろうか?

しかし、私のそんな心配は杞憂に終わりました。

私がピザを注文するやいなや、その店員の方はパッと後ろの棚を開け、中から冷凍されたピザを取り出し、レジを開けてそのピザを滑り込ませました。この迅速な動きは、まるでこの動きを何百回も繰り返してきたかのような完璧さで、一秒の無駄もありませんでした。

これがプロのスピードか、と私はただただ感心しておりました。

そこで店員の方が、レジの温める時間を押しました。

その時間を見て、私は目を疑いました。

 

「45秒」

 

と表示されたのです。

温める時間が45秒だと!?

注文してから約40秒でできるピザを温める時間が、45秒だと!!

私は、アインシュタインの相対性理論のことを思い出していました。

時間とは何か、ということを、ひたすら考えていました。

とても長く感じた45秒が終わった頃には、既に私の後ろに人が並び始めていました。

さらに、レジでの温めが終わった後に、その店員の方はピザを取り出し、たぶん冷めないためだと思いますが紙袋にピザを入れて、その紙袋を何度もテープで貼り付けていきました。

店員の方の動作はものすごくスピーディでございました。

おそらく、マニュアルどおりの完璧な動作でした。

それでも、ピザを注文してから出されるまでに、3分かかりました。

その間に、私の後ろには、店内にいた五人全員のお客が並んでいるという事態になったのです。

そしてそのコンビニに、ピンポンピンポンと呼び鈴の音が鳴り響き、バックヤードから休憩していたであろうもう一人の店員の方が走ってくるという、てんやわんやの騒ぎになったのであります。

後ろに並んでいる客は、何をこんなに人が並んでるのにピザなんて頼んでるんだよ、という目で私のことを見ていました。

こうして、私も悪くなく、店員の方も悪くないのに、深夜のコンビニで悲劇は起こってしまったのであります。

帰り道、ピザは冷めていませんでしたが、私の心は冷め切っていたのでございます。

 







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