『悪人』吉田修一




読み終わったすぐ後に、この本について他の人がどう思うのかを知りたくなり、特に信頼できる書評家はこの本にどのような評価を下したのかが知りたくなり、この本の存在を誰かに伝えたくなり、この本が獲った賞がどんなものかを調べたくなり、この作品が2008年度の本屋大賞4位を受賞していると知り、だとしたら1位とか2位とか3位の作品はこれより面白いこともありうるのかなんて考え出したらワクワクし始めて、世の中にはまだまだ面白い本がたくさんあるんだと胸が高鳴り、本の帯に適切かつ興味をそそる推薦文を書いている浅田彰をこれからも書評家として信頼しようと誓い、とにかく吉田修一の著作を一刻も早く読み漁らなければと決意した。

吉田修一が面白いという噂はじつは結構周りで聞いていて、読もう読もうと思っていたのだけれど、何年か前に、芥川賞を受賞した『パークライフ』とデビュー作の『最後の息子』だけは読んでいて、『パークライフ』はピンとこなくて、『最後の息子』の中に収録されている『water』という水泳部の青春を描いた短編でうるっとくるぐらい感動したのだが、たまたま自分が感傷的な気分だったからだけかなあ、とか考えてしまい、特にそれ以降吉田修一の作品を読んでいなかった。

『悪人』の面白さはたくさんあって、物語の展開が読めないところとか、それぞれ癖のある登場人物の様々な視点が絡み合うとことか、文学的で綿密な文章とミステリーの融合とか、細かい描写が優れているところとか、しみじみと考えさせてくれるところとか、まあいろいろあるのだが、単純に、ぐいぐい引き込まれて興奮した、というのが一番率直な感想であり、それは小説を読むうえでもっとも至福のときだと思うし、なんだか難しくて読みづらいけど良い作品だった気がするなあ、みたいな小難しい文学作品や哲学作品を読んだときでは味わえない驚きがこの『悪人』にはあり、僕はこの本を読んで、桐野夏生の『グロテスク』という小説を読んだときの高揚感がよみがえったのであった。

あらすじをくだくだ書いても、この作品の面白さはまったく伝わらないのはもどかしくて、とりあえず読んでみてもらいたいとしか書きようがなく、それにしてもやはり芥川賞受賞作家には全員ミステリー小説を一作は書いてもらいたいものであり、逆にベストセラーを連発しているミステリー作家には文学小説を一作は書いてもらいたいものであり、そのような他ジャンルのコラボレーションから面白い作品が生まれることが今後ますます多くなってくるだろう、なんてことはわざわざ僕が言わなくてもいろんな人がもう言ってるのだろうが…。




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