小説の面白さって、何なんだろうと、たまに考える。
映画にも漫画にも演劇にもない、小説だけの魅力。
それはたぶん文体なのでは、と思った。
言葉の選び方、表現の巧みさ、文章のリズム、そういった文体こそが、他のジャンルにはない小説だけの魅力なのでは、という結論に自分の中で達した。
文体を制する者は小説を制すのではないか。
しかし、文体が優れているからといって、必ずしも面白い作品になるわけではない。
文体は大切なような気がする…、でもそれだけではない気もする…。
そんなモヤモヤした気持ちのときに、この作品に出会った。
奇跡的な作品だと思った。
『文体練習』レーモン・クノー著の感想・書評・あらすじ・卒論にもおすすめ
たった一つのどうでもいい出来事を、99通りの別々の文体で書き換えるという訳の分からない試みをしたのが、この『文体練習』である。
バスに乗っていた男がバスから降りて…という些細な出来事が、ありとあらゆる文体で表現されている。
ときにぶっきらぼうな口調になったり、長文になったり、視点が変わったり、俳句調になったり。
この本は値段が高いので図書館で読んだのだけれど、久しぶりに館内で声を出して笑ってしまっって、周りに座っている人から迷惑そうに睨まれた。
こんな下らないことを、フランスの頭のいい文学者が真面目に書いているところが、すごい。
レーモン・クノーは、しょうもない材料を巧みに調理してしまう、料理人のようだ。
次々と実験的な作品を書く筒井康隆が僕はかなり好きなのだが、この作品は全盛期の筒井氏をも凌駕するほどハチャメチャである。
この本を読めば、文体の素晴らしさが、よく分かる。
またそれと同時に、文体だけに凝ることの虚しさも、よく分かる。
文体だけではダメ、テーマだけでもダメ、ストーリーだけでもダメ、キャラクターだけでもダメ、それら全てが組み合わさってこそ素晴らしい小説ができるという当たり前の事実に、気付くことができた。
作者レーモン・クノー(raymond queneau)とは【文体練習・はまむぎ・地下鉄のザジ】
レーモン(レモン)・クノー(Raymond Queneau, 1903年2月21日 – 1976年10月25日)は、フランスの詩人・小説家。『地下鉄のザジ』『文体練習』『はまむぎ』などの実験的な作風で知られる。(ウィキペディアより引用)
『文体練習』あらすじ
「バスに乗っているとき、首が長く奇妙な帽子をかぶった男ともう一人の乗客との口論を目撃する。2時間後に、同じ人物がサン・ラザール駅前で友人から『オーバーコートにもう一つボタンをつけるべきだ』と助言されているのを見かける。」という1つのストーリーを99通りの異なる文体で描いている。(ウィキペディアより引用)
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