スターバックスでなめられない方法




人間、なめられたら負けである
しかし、都会には、思わずなめられてしまう場所がたくさんある。
スターバックス。
緑を基調とした店内の、圧倒的な存在感。
それはまさにグリーン革命。

まずメニュー選びで悩んでいるとみくびられるので、私はカウンターに着くや否や「本日のコーヒーで」とダンディにつぶやく。
すると店員は「本日のコーヒーはこちらの二種類ありますが、どちらになさいますか?」と訊いてくる。
なにやら、まろやかなものと味の深いものと、どちらかを選ばされる。

はっきり言って、どちらでもいい。
しかし、どちらでもいいですなんて言った日には、味の分からない下種男だと馬鹿にされるので、私はそこで質問をする。
「まろやかなコーヒーと書いてあることでちょっとお尋ねしたいのですが、これはコーヒーの味としてのまろやかさですか?それともまろやかな味の中にあるコーヒーのことですか?」
店員は一瞬戸惑う。
カフェで質問をしてくる客なんて大抵は
「カフェオレとカフェラテって何が違うんですか?」みたいな幼稚な質問しかしてこないものだから、これほど哲学的な問いをされるケースには慣れていないのだ。

テンパっている店員に私は
「いや、分からないならもういいです。ではまろやかなコーヒーをください。たとえそのまろやかさが虚構だったとしても」と優しく助け舟を出す。
そしてコーヒーを受け取る。ゴールまであと少しだ、と思いきや、そこで予想しなかったことが起こる。

「お客様、ワンモアコーヒーのサービスはご存知ですか?」
ワンモアコーヒーのサービス?
なにをいっているのだ、コノヒトハ…?
「あ、それはちょっと分からないですね」
私は自分の矜持をなんとか保ちながらも、相手に質問をする。ここで慌ててはいけない、落ち着け、と私は自分の鼓動の高鳴りを抑えようとする。

「このレシートをご提示頂ければ、本日中ですと他の店舗でもコーヒーが100円でお楽しみいただけます」
おそらくマニュアルと一言一句変わらないそのメッセージが、私の胸に突き刺さる。

ワンモアコーヒーだと?初めて聞いたぞ。コーヒー1杯100円だと?一体、今世界で何が起こっているんだ!?待てよ、私は先週も別のスタバを利用したが、そのときは何も言われなかったぞ。今週から始まったサービスなのか?それとも、先週の店員がたまたま説明し忘れていただけか?それともそれとも、本当に恐ろしいことなのだが、もう何年も前からこのサービスはスタバにあったのか?周知の事実だから店員も今まではいちいち説明しなかっただけなのか?だとしたら私はピエロではないか…。私は先週スタバに一日に2回行った日があり、このサービスを知っていれば、コーヒーが100円で飲めたのに。ああ、あるまじき失態。しかし、しかし、ここで焦ってはいけない。よくよく考えれば数百円の話ではないか、落ち着け落ち着け。
ここまでを、私は顔をまったく変えずに約0.5秒で思考したあと、
「へえ、良いサービスですね」
と笑顔で応える。もともとそのサービスの存在は知っていたが最近仕事で忙しくてたまたまド忘れしただけです、という感じを店員に与えることに成功したことを、私は確信する。

ここで油断して、砂糖やミルクが置いてある台に向かってはいけない。
私はまず、その場で店員が見ている前で、コーヒーの香りを堪能する振りをする。
「ほう」とつぶやく。
「なるほどね、そうきましたか」とつぶやく。
そしてゆっくりと、砂糖やらミルクやらが置いてある台に向かうが、「ここには用はない」とつぶやいて、素通りする。
砂糖やミルクやらを入れたら負けだ。
蜂蜜やらシナモンやらを入れたら完封負けだと思ってもらっていい。
シナモンを入れたらシナモンの味しかシナイモン。そんなのヤダモン。

席に着き、私は溜め息をつく。
「何とか今日もなめられずにすんだな。だが明日はどうなるか分からん。本日のコーヒーが飲めるのは本日だけ。人は瞬間瞬間を、せいいっぱい生きるしかないんだ」
という真理に私はたどり着く。
緊張が緩んだのか、気づくと、私の目から涙が溢れている。
その涙が、コーヒーにこぼれ落ち、味をまろやかにしていく。

スターバックス。
それは人としてグランテになるための登竜門。
人生のほろ苦さをなめつくすために、マメに足を運びたい場所。
(完)

 

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