一人称と三人称の違い【小説・視点のブレ・三人称一元視点・神の視点】




小説を書くときには、大きく分けて一人称と三人称の二つの書き方に分かれます。(二人称「あなたは…」という書き方もあるのですが、イレギュラーなのでそれほど気にしなくていいと思います)

一人称とは、「僕は…、私は…」というような書き方ですね。

三人称とは、「鈴木太郎は…、山田花子は…」というような書き方ですね。

 

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それぞれのメリット・デメリットを紹介していきましょう。

一人称のメリット・デメリット・タブー【視点・小説・おすすめ】

一人称は主人公の目線がカメラになっているようなイメージですね。

物語は主人公の目線で語られていきます。

基本的には主人公が移動して、いろんな人に会ったり、いろんなことをする、というパターンの小説が多いです。

一人称の強みとして、主人公の内面や心情が描きやすいんです。

だから文学では一人称が使われる傾向が多い気がします。

一人称小説のおすすめ作品である、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』から引用してみます。

 

 僕が閉口させられたのはね、隣に女の人が座ってて、これが映画の間じゅう、泣き通しなんだよ。映画が嘘っぱちになればなるほどますます泣くんだな。そんなに泣くのは、その人がすごくやさしい心の持ち主だからと思うだろうけど、僕はすぐ隣に座ってたんだが、違うんだね。この女の人は小さい子供を連れててね、その子がひどく退屈して、おまけにトイレに行きたくてたまんないのに、連れて行こうとしないんだ。じっと座って行儀よくしろって、そう言うばかしなんだ。あれでやさしい心の持ち主なら、狼だってやさしい心の持ち主だね。映画のインチキな話なんか見て目を泣きはらすような人は、十中八九、心の中は意地悪なもんさ。

~『ライ麦畑でつかまれて』サリンジャー著より引用~

 

主人公のホールデン君は、社会のありとあらゆることに、怒りや不満が溜まってるんですよね。

だから、映画館で泣いているような、普通だったら批判するようなことではないように思うことさえ、怒りをぶちまけます。

しかもただ批判するだけでなく、ユーモアたっぷりの皮肉を添えて。

その圧倒的な観察眼や繊細さやユーモアセンスや哲学や思想に、世界中の人が共感したからこそ、この本はベストセラーになったのだと思います。

このような主人公の心情を深く描けるのは一人称の強みですね。

三人称でもそれぞれの登場人物の内面を書くことはできるのですが、ここまで深くは描けないですからね。

さらにブログとか日記を書いてて思うのが、一人称は、日記とかの延長で書けるんですよね。

僕は今日OOに行きました。そこでOOと出会いました、そこでOOをしてくれと頼まれました、しかしいくつかの問題があって…、と書いていくと、だんだん小説が始まっていきますね。

だから1人称のほうが3人称に比べて、初めて書くときにはとっつきやすいと思います。

しかしこのメリットはデメリットと表裏一体で、一人称は書いていて小説っぽくなくなる可能性があるんですよ。

ただの日記になっていたり、作者が愚痴を垂れ流しているだけだったりで、読者が読んで面白くない作品ができあがる可能性も高いです。

またデメリットとしては、主人公がいるシーン以外を書くのはタブーなので、描ける範囲が限られてしまいます。

登場人物が多くなればなるほど、一人称で描き切るのが難しくなると思います。




 

三人称のメリット・デメリット【登場人物が多いときにおすすめ・カメラがいろんな人・視点移動・エンタメ作家に多い・主語】

三人称はカメラをいろんな人に動かせるイメージですね。

鈴木太郎は料理をしていた。と書いたあとに、次の章で、山田花子が泣いていた、という風に、いろいろな登場人物の行動を描くことができます。

たくさんの人物を描けて、ストーリーも広がりやすいので、ミステリーなどのエンターテイメントは三人称で書かれていることが多いですね。

また客観的にその人間を描ける、というのが大きいですね。

一人称が登場人物の内面にぐーっと入り込んでいくのに対して、三人称でも心情は書けますが、どこか突き放したというか、離れたところから客観的に見ているようなイメージですね。

 



三人称一元視点について(三人称は一元視点の単視点で書くのが基本・例文・地の文の心理描写・三人称単視点のタブー・視点変更・独白)

三人称では登場人物のいろんな人にカメラを動かせるのですが、基本的には視点を一人に固定する「三人称一元視点」が、今の小説界ではスタンダートな書き方になっています。

章の初めに、

 

「佐々木は目を覚ました。今日も寒くて気分が悪い」

 

という書き出しだった場合、「カメラや視点」は「佐々木」というキャラクターに固定されます。

 

 佐々木は会社に行き、上司の大門に出会った。佐々木は大門のことが気にいらない。大門のネクタイの柄も嫌いだ。
「おはよう、佐々木くん」
 今日も憎たらしい声をしている。大門と違う部署に異動したいのだが、なかなか叶わない。

 

このように、佐々木の視点で語られて、地の文で佐々木の独白で心理描写を書くことはできるのですが、上司の大門の心情は描けない、とするルールが「三人称一元視点」ですね。

この書き方だと、章を変えるときに、誰かほかの登場人物に視点を変えることができます。

1章は佐々木の視点、2章は大門の視点、という風に切り替えることはできます。

 

三人称多元視点(視点のブレ・視点がコロコロ変わる小説・例文)

いっぽう、三人称多元視点は、章の途中で、コロコロと登場人物の視点を入れ替えてもいい書き方です。

そのやり方で書いてみましょう。

 

 佐々木は会社に行き、上司の大門に出会った。佐々木は大門のことが気に入らない。大門のネクタイの柄も嫌いだ。
「おはよう、佐々木くん」
 大門は声を張り上げて言った。佐々木はこちらを見て、小さく挨拶を返した。まったく、最近の若者は…。大門は、佐々木のナヨナヨした性格に腹が立っていた。早く他の新人と変わってほしいのだが。

 

この書き方だと、視点が途中から新人の「佐々木」から上司の「大門」に移ったんですよね。

読んでみると分かると思うのですが、視点のブレがありコロコロ変わると、読者が混乱するんですよね。

だから今はこの「三人称多元視点」は、あまり使われてないです。

視点のことを考えずに書くと、こういう視点のブレが出てしまうんですね。

「三人称多元視点」で書いても別に問題はないのですが、分かりづらくなってしまうというリスクがあります。

 

神の視点について

もっと自由な神の視点というのがありまして、それで書いてみましょう。

 

 佐々木は目を覚ました。今日も寒くて気分が悪い。

 これから数時間後に、佐々木は上司の大門と、とんでもない激突を繰り広げることになるのだが、もちろん彼はまだそのことを知らない…。

 佐々木は会社に行き、上司の大門に出会った。

 佐々木と大門が挨拶をしているのを、総務課の今泉が見ていた。まったく、あの二人はいつもいがみ合っているな…。

 今泉はこの会社に入ってもう5年になる。

 そのとき、会社の窓を突き破り、カラスが今泉に向かって突進してきた。今泉はよける暇もなく、飲んでいたコーヒーをこぼした。

 

神の視点はこのように、カメラが上空にあるというか、誰の視点も心情も書けて、さらに未来や過去にもカメラが動かせるという書き方です。

数時間後に何が起こるかなんて登場人物は知らないわけですが、そのことも書いていいのが「神の視点」ですね。

この書き方も、今はもうあまりされてないです。

 

初めて小説を書くときは、一人称と三人称どちらで書くべきか【どっち】

始めて小説を書くときは、一人称と三人称とどちらで書くべきかという問いがもしあれば、

「どちらでもいい」という答えになるかと思います。

好みの問題なので、まずは自分に向いている方で書いてみて、試してみるのがよいでしょう。

ただ一つの提案として、ある程度どちらかの人称で書いたあとに、もう一つの人称も試してみることをオススメします。

すでに1人称で何年か小説を書いていたら、次の作品は3人称で書いてみる、という風にですね。

両方書いてみることで、小説を書くときに幅が生まれてくるでしょう。

作品ごとに一番合った書き方があるので、両方の人称を書けた方が有利だと思います。

一人称と三人称が混じった小説『鳩の撃退法』佐藤正午【混在・使い分け】

一人称と三人称を混ぜて書かれた小説も、ごくわすかにですがあります。

佐藤正午さんの『鳩の撃退法』は、三人称で物語が始まって、途中から一人称になり、さらに時制もグニャグニャと切り替わっていくという、かなり複雑な作品です。

小説を書いたことがある人がこの本を読んだら、あまりのテクニックの凄さに、引っくり返ると思います。

ただしこれはかなり上級者用のテクニックなので(佐藤正午さんは30年以上小説を書いているベテランです)、慣れないうちは真似しないほうが無難です。

小説の書き方は自由だ、という感覚を味わうためにも、この小説はおススメです。




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